「活性酸素は体に悪い」——この単純な理解は不完全です。ROS(活性酸素種)とトレーニングの複雑な関係を科学的に解説します。
目次
活性酸素(ROS)の基本:「敵か味方か」
ROS(Reactive Oxygen Species)とは:スーパーオキシド・水酸化ラジカル・過酸化水素(H₂O₂)など、反応性の高い酸素含有分子の総称。生体内で常に産生される(ミトコンドリアでの電子伝達系の副産物が主要源)。低〜中程度のROS:細胞シグナリング分子として機能→筋肥大シグナル(mTOR活性化)・ミトコンドリア新生(PGC-1α活性化)・抗酸化酵素(SOD・GPx)の誘導に必要。過剰なROS(酸化ストレス):タンパク質・脂質・DNA への酸化的損傷→細胞機能障害→慢性疾患・老化加速の一因。「ROSはすべて悪」ではなく、適度なROSは運動適応に必要なシグナルです。これを「ホルメシス(毒も適量で薬になる)」といいます。
トレーニングと酸化ストレスの関係
- 運動中のROS産生:高強度運動→ミトコンドリアのROS産生増大。虚血-再灌流(運動中の局所血流変化)でもROSが産生される。運動中のROS→筋収縮のシグナル調節(カルシウム取り込み・筋ポンプ機能)にも関与
- トレーニング適応とROSの役割:低〜中程度のROS(運動直後)→AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)・Nrf2転写因子活性化→内因性抗酸化酵素(スーパーオキシドジスムターゼSOD・グルタチオンペルオキシダーゼGPx)の誘導。これが長期的な「酸化ストレス耐性の向上」につながる。定期的に運動している人の内因性抗酸化能力は、運動していない人より高い(適応の証拠)
- 高用量抗酸化サプリの問題点(重要):ビタミンC(≥1g/日)・ビタミンE(≥400 IU/日)の高用量補充→ROSを「消去」しすぎる→筋肥大シグナル(mTOR、AMPK)の減弱。複数のRCTで、高用量抗酸化サプリが有酸素トレーニングによるミトコンドリア新生・インスリン感受性改善を阻害することが示されている。「サプリで酸化ストレスを完全に消す」ことは、トレーニング適応そのものを阻害する可能性がある
実践的なアプローチ:サプリより食事
推奨されるアプローチ:ポリフェノール・カロテノイドなどの食事性抗酸化物質(野菜・果物・緑茶・ベリー類)は適度な「抗酸化サポート」を提供しつつ、ROSシグナルを完全には遮断しない。食事の多様性と野菜摂取の充実が「最も安全・効果的な抗酸化戦略」。高用量の単一抗酸化サプリは「より良い回復のため」と思っていても、トレーニング適応を妨げる可能性があるため推奨しない。「酸化ストレスゼロ」を目指すのではなく、「運動適応を支える適度なROSバランス」を保つことがトレーニング科学の現在の知見です。
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